偽装結婚の秘密 一人でこらえる、やるせなさ
偽装結婚サービスを利用する多くの人は、家族に隠して自分で何とかしようとする。
人生で一番の晴れ舞台で、周囲の人への対応は平静を装いながらも、心の中は不安で一杯なのだ。
何度も説得し、素性は秘密にすると誓った後、私は彼女の結婚式に「新郎家」の客という立場として参加することになった。結婚式は2月の初めに南東部のある省で行われた。
朝6時ぴったりに、ホーチミン市2区の集合場所から、10人余りの「新郎家一団」は双喜紋のステッカーを貼られた2台のマイクロバスで移動する。誰もが正装し、まるで本物の結婚式に行くようだ。
■魂を抜かれたような新婦
長い道のりを経て、私たちは予定時間の少し前に到着した。新郎家一団の先頭を行くのは、代表者とキンマとお酒の盆を両手で抱えた青年、続いて新郎、貢物の盆を抱えた「親族」の一団だ。
新婦の家はあわただしい。先祖の仏壇のある部屋では、一族の長老たちが新郎家の一団を歓迎している。おめかしをした子どもたちは、新郎が現れるのを今か今かと楽しみに待ち構えている。
初めて偽装結婚式に参加したので、私はドキドキして何か落ち着かなかった。長老たちや母方、父方の親戚たち、無邪気な子どもたち皆が、新郎や新郎家一団が「偽物」と知ったらどう思うのだろうか。
待ちわびた頃、「顔を明かさない花嫁」が姿を現した。部屋の中から現れた新婦は、赤い帽子に赤いアオザイに身を包み、母親に手を引かれ、みんなに挨拶をしている。
新郎は美しい男性で、少々緊張したような顔ながら、新婦の家族へ笑顔を見せていた。新婦は、大きくなりはじめたおなかを少しでも普通に見せたいかのように両手を前で組んでいる。
「さあ、二人で先祖の仏壇にお線香をあげて祈りを捧げてください!」という新婦家の仕切り役の声に、新婦ははっとして、おろおろしながら長老たちを見上げ、あわてて仏壇の方向を向いた。
新婦のそわそわした様子とは反対に、新郎はかなり落ち着いて儀礼をこなしている。唯一、結婚指輪とイヤリング、金のネックレスを新婦につける時だけ新郎はちょっと戸惑っていただけだった。
新婦が身に着けたきらきらと輝くアクセサリーを見て、突然、私の頭の中に、ある偽装結婚を行う会社の代表が言った「赤裸々」な言葉がこだました。
「新郎家から婚姻の贈り物を本物にするか偽物にするかはお客様次第です。しかしながら私たちは、今の時代はすぐに本物か偽物か見破られるので、偽物の金を使わないほうが良いと強く勧めることにしています。その代わりに、弊社では2,000万ドンの基金を設立して1日100万ドンで本物の女性用のアクセサリー一式を貸し出しています」。
そして、彼は注意事項として、「新郎にはこのアクセサリー一式を回収する責任があります。ですから、そのアクセサリーをすり替えられないように新郎は新婦のそばにいないといけません。もしすり替えられたら大変なことになります」と付け加えた。
儀礼の後も新婦は、更に3時間の披露宴で平静を装いながら「演じ続け」なければならない。披露宴の前半、偶然にも、披露宴パーティのレストランでは、「一人でこらえる、やるせなさ」という歌が流れた。まるで嗚咽する新婦の心の声のように聞こえるフレーズだ。
「溢れ出るのは涙なの、それとも雨かしら。あなたがいない日々を私はどう過ごせば良いの。この痛みをどうすればいいの。こんなにやるせないのに、それを隠さなければならない私…」、この歌は彼女そのものだった。
Khanhさん(31才、ホーチミン市在住)は過去に7回偽装結婚に、貢物のお盆を持つ役柄として参加した。しかし今回は彼にとって最も印象的な式だったという。
Khanhさんは、「この新婦からは、他の新婦と比べて激しく何かを抑えているような感じを受けました。もし思いきり泣けたなら、このステージは彼女の涙で溢れていたでしょう。彼女の『姿の見えない男性』が、この状況を見たら、いったいどのように感じるのでしょうか」。
「個人的に思うのは、もしその彼がもう彼女を愛していなかったとしても、何らかの責任を取る必要があるということです。そうでなければ、こんなにか弱い孤独な女性に、すべてを背負わせることがどうしてできるのでしょうか」と静かに語った。
■無事に偽装を終えた新婦の体験談
かつて新郎をレンタルし、偽装結婚を行ったNさん(Hai Duong省出身で現在はホーチミン市在住)は「まさか私自身がこんな状況に陥るなんて、夢にも思っていませんでした。以前はドラマの中の話だけだと思っていました」と打ち明ける。
Nさんは数年前の話をしてくれた。その当時、通信制の学生だった彼女はハノイで仕事をしながら学んでいた。その頃、かなり男前な男性に言い寄られた。
知り合って6カ月後、彼女は妊娠した。その時になって初めて、相手に妻子がいること知った。Nさんがそのことを知らないと思った彼は強く拒絶し、子どもを堕すように勧めたのだ。
Nさんは「その当時、ずっと泣いていました。後悔と、あまりにも自分が憐れでしたから。生まれてくる我が子に父親がいないのも不憫でしたし、かといってこのまま進んでも、相手の家族の幸せを壊してしまう事にもなるとも考えました。考えに考え抜いて、別れることに決めたのです。でも、私の両親が世間から『相手のいない、お腹の大きい娘』が帰ってきたとあざ笑われるのが、どうしようもなく我慢ならないという思いがありました。それだけは出来なかったのです」、と語った。
結局、他の解決方法が思いつかず、Nさんは長年仕事をして貯めてきたお金と、更に借りてお金をかき集め、3,000万ドンの偽装結婚パッケージを申し込んだ。
彼女は業者に、新郎は外見がかなり良く、きちんと受け答えのできる人にして欲しいと頼んだ。その目的は、実家に帰って紹介する時、両親が好青年の新郎だったら、結婚をすぐに進めようとするだろうと考えたからだ。もし少しでも悪いところがあれば簡単に話がご破算になってしまう。
Nさんは両親に、新婦の家だけで結婚式を行うことと、そこに新郎の代表が参加するということを頼んだ。
結婚式の当日、台本ではパーティが終わった後、新郎家が新婦をすぐに連れていくという段取りになっていた。
ところが急にNさんの兄が、「新しい家族の家を教えてくれ」とぐずぐず言い出した。Nさんは泣きながら夫の家はとても遠いこと、私たちはハノイに戻ってすぐに働かならないと説明した。なんとか理解を得て、その日を無事終えることには成功した。
結婚式の1カ月後、Nさんは再び「夫」をレンタルし、婚姻後の挨拶のため実家へ戻った。親族と昼食をしてすぐに帰途に着く。Nさんの両親は、「どうしておまえたちはバタバタと帰ってきて、そしてすぐにまた行ってしまうのか」と不満をもらした。Nさんら「偽装夫妻」は引き続き「おいとま」するための理由を訴え続けるしかなかった。
子どもが生まれて3カ月後、Nさんは家族に離婚したことを告げた。二人の性格が合わないという理由だ。以前、両親が「夫」に会わせてほしいというたびに、Nさんは夫が出張で忙しいなどの嘘をついてきた。
「自分の本当の身内と対峙するのは、とても後ろめたいし、本当に悲しい事でした」とNさんは当時の辛さを語ってくれた。
■幼馴染のストーカーから逃れるために偽装結婚
つい先ごろ、筆者はある女性ワーカーの偽装結婚に参加するため、Tien Giang省へ行く機会があった。
そこでのケースは、地元でアルコール中毒の男に長年付き纏われ、その男と結婚したくなかった30才を過ぎた女性は、誰かから「子どもを授かりたい」とすら願った。
しかし、近所で家族に悪評が立つことは避けたい彼女は結局、新郎をレンタルし結婚式を行った。これにより幼馴染のアル中からのストーカー行為はおさまったという。
■偽装が発覚、父親激怒
ある偽装結婚サービス会社の代表は、かつてGia Lai省であった失敗談を話してくれた。
その偽装結婚式は台本では、披露宴終了後「新郎家」は全員帰ることになっていた。新婦の父親も事前にそれを聞いていたが、娘の結婚があまりにも嬉しく、酒が進んだこともあり、宴会の部屋にカギをかけてしまった。
そして、「新郎が海外へ出張するのに忙しいならば、新郎は先に帰っても構いません。でも、その代わりに新郎家のいとこたちの皆さんは、ここに残って祝いの宴を続けましょう。今夜は引き続き楽しんで、家に泊まっていってください」と言いい、一切譲らなかった。
一方で、新婦はレンタルした人たちに追加料金を払う余裕が全くなかった。どんなにすがって両親に頼んでも聞き入れてもらえない。そこで彼女は両親に事実を話さざるを得なくなった。
祝いの宴が、偽装の宴であることを知った父親は、あまりの怒りに娘を殴ってしまった。しばらくして落ち着きを取り戻すと、「どうぞお帰りください」と丁重に新郎家の一団を帰したという。
■同性愛者であることを隠すために男性と偽装結婚
数年前、Vinh Long省で新婦が同性愛者の女性だったという事件が世間を騒がせた。
自分が同性愛者であることを隠したかったので、新郎をレンタルして偽装結婚したのだ。披露宴が行われていた時、新婦家では新郎家が娘に贈った婚礼の品々を、本物かどうか確認していた。そして、それらはすべて偽物の金だとバレてしまった。
婚礼品が偽物ということで大騒ぎとなったため、新郎も偽物とバレるのを恐れた新郎役者は、宴の途中で逃げ出す羽目になってしまった。
(Thanh Nien 3月27日,P.22)
(2020/07/29 12:50更新) |