メトロ建設中止の危機、日本企業への影響
梅田邦夫全権特命大使は、ホーチミン市党書記官への書簡の中で、1億ドルの債務の支払いがこれ以上遅延するようであれば、プロジェクトの建設を中止せざるを得ないと強調した。
■工事費用の立替を強いられる企業も
梅田大使によると、ゼネラル・コンサルタントのNJPTとのメトロ1号線プロジェクト管理コンサルタント契約は、2017年4月に期限が切れている。しかしコンサルティング業務は続けざるを得ないにも関わらず、この19か月間一切の報酬を受け取っていない。
ホーチミン市人民委員会が、Tran Vinh Tuyen副委員長の指示に従い、契約の再署名に向けた作業部会を設立したにも関わらず、契約の調査と見直しが進んでいないことだ。これまでのところ、NJPT社に対する延滞金は2,000万ドルにのぼり、同社から他の請負業者への支払いに影響が出ている。
一方、Sumitomo-Cienco4(三井住友建設とベトナムの第4交通工事建設公社の共同企業体)によるCP2(高架区間)パッケージは、立退き補償が障害となり遅延している。それにより、この請負業者との契約(2018年1月時点)に基づく建設完成日を超過することに繋がった。
市の財務局は、請負完了日以降の建設費を、請負業者に支払うことができず、2018年1月以降の建設費の支払いが止まっているとコメントしている。
さらに2018年から各パッケージの設計は、市交通運輸局の承認を受ける必要がある。各パッケージの建設は現在も行われているが、すでに完了した部分への支払いは止まったままだ。
市人民委員会は2018年6月末、都市鉄道管理委員会(MAUR)に対し、覚書契約に署名し、80%を仮払いするよう指示したが、まだ実施されていない。
パッケージ1bを請け負う Shimizu-Maeda JV(清水建設-前田建設工業の企業共同体)の担当者は、パッケージ1bは、2本のトンネル設備を設置する段階にあり、全体の70%が完成したが、MAURは依然として業者に一切の支払いも行っていないと話す。
清水建設グループは、建設作業を維持するため、8,000万ドル(約1兆6,000億ドン:約80億円)を自ら支払わざるを得なかった。
同担当者は、「プロジェクト資金が不足しているため、請負業者への清算資金がないと思われていますが違います。最大の問題は、2018年に市人民委員会がすでに1兆ドン(約50億円)を仮払いしているにも関わらず、MAURがわずか2,200億ドン(約11億円)しか各請負業者に清算していないことです。MAURは手元にお金があっても、支払わないのです。NJPTのコンサルティングは契約が切れ、市は1回に3~4か月かかる交渉を5回行いましたが、結果は出ませんでした」と述べた。
■1億ドル以上の延滞金
ホーチミン市人民委員会のTran Vinh Tuyen副委員長は、ゼネラルコンサルタント契約の支払いを行うには、契約を更新する必要があり、まず期間延長の契約に署名しなければ、国家金庫からの支払いはできないという。
Tuyen氏は、「MAURは当時、契約更新でさらに多くの費用がかかることを懸念し、MAURのLe Nguyen Minh Quang委員長は署名を行いませんでした。契約の付録は、国家金庫からの清算のためにただ期間を更新するだけで、その他は何の変更もありませんが、Quang氏は署名を拒否しました」と明かした。
また、「国家金庫側によると、国家会計検査院は契約の付録に従って支払いを許可しますので、契約の期限が切れたのであれば、更新が必要だと言っています。いつまでもこのような状態が続くため、新委員長による解決を待つしかありません」と話した。
梅田日本大使は、Nguyen Thien Nhan党書記官に送った手紙の中で、「請負業者の負担は限界に達しています。12月末までにこれらの問題が解決されなければ、プロジェクトの建設を中止せざるを得なくなり、非常に残念に思います」と記している。
梅田大使によると、メトロ1号線プロジェクトは、2007年から日本のODA資金により実施されてきた。投資調整の決定で承認が遅れたため、プロジェクトは2017年10月以降、ベトナム政府の予算を割り当てられなくなっている。
市人民委員会は、国がプロジェクトに予算の割り当てを待つ間、市の予算から仮払いをすると約束した。
しかし、建設省が契約完了日を超過した後でも建設費を支払うことが可能なことについて、既に意見書を出しているにも関わらず、この仮払いは実施されていない。大使は、ホーチミン市に対し、2019年1月から建設費用の支払いを再開するため、早急な手続きを促すよう関連当局への指示を求めた。
建設請負業者およびコンサルタント業者への延滞金は、2018年10月末までに1億ドルを超えている。
■テト前の支払いを約束
市人民委員会Nguyen Thanh Phong委員長は、梅田大使への返信の中で、メトロ1号線プロジェクトの各請負業者への支払い4,500億ドン(約22億5,000万円)の早期実行を約束した。
Phong委員長は、1月18日に行われた阿部俊子外務副大臣との会談で、契約更新、合弁企業の法的資格、承認権限、プロジェクト決算など、関連する手続きでいくつかの問題があり、日本の請負業者への支払いが遅れていることを認めた。
資金調整を待つ間、市は2018年と2019年年初に行われた請負業者の作業を清算するため、市予算から約2兆ドン(約100億円)の仮払いを行う。
Phong委員長は、「市はテト前(2月1日)までの清算に向け、支払の早期化に努めています。各請負業社の利益を確保するため、未解決の問題を解決し、2020年末までにプロジェクトを完了します」と述べた。
安倍外務副大臣は、テト前までの支払いを約束するPhong委員長に対し、「日本政府と各企業にとって意味のある“お年玉”です」と述べた。
MAURのBui Xuan Cuong新委員長は、2018年の工事を実施した各請負業者に対し、清算分の80%を支払うため、市人民委員会に対し、2兆2,480億ドン(約112億4,000万円)を仮払い(2019年1回目)するよう提案した。
(Tien Phong 1月23日,P.14)
(2019/05/10 08:50更新) |