ベトナム:村の「公的」事業は金の違法採掘
「悪い、俺には妻も子もいるんだ」そうバイクタクシーの運転手は言い、我々を置いて引き返していった。
3月下旬のある夕暮れ時、そこはLam Dong省Duc Trong県のTa Nang村にある金の採掘現場から12km離れた場所だった。
翌朝、やっとのことで村にたどり着いた我々は、作業者になりすまし現場に向かった。まず目に入ったのは、無秩序に掘り返された、荒れた土地だ。離れたところで1台のショベルカーが、怪物のような手で黄金の眠る土を掘り起こしている。
この金鉱、以前は長さ12km、幅500mほどの川だった。15年程前に、川の砂層の下に金があることが分かり、少数民族の暮らすこの山間部には、大勢の人が押しかけるようになった。だがその頃の採掘作業はといえば、主に手作業だった。
1997年ごろに金の採掘は禁止され、Lam Dong省は鉱物資源の管理・保護をDuc Trong県所属軍とTa Nang村に委任した。機械を入れての採掘が再び行われるようになったのは、2年前である。
以前、川の両側は村人の植えた草花が年中生い茂っていた。乾季でも水は涸れず、水流が速いため、雨季にも洪水にはならなかった。だが採掘により川はあちこち堰き止められ、水はけが悪くなり、農作物の収穫に影響を及ぼした。水も赤く濁り、採掘による水銀汚染も深刻化している。
現在この地には約30名の違法金鉱採掘「管理者」がおり、1人の管理者は20〜30名の作業者と、少なくとも2〜3の採掘穴を管理している。管理者には、村役人の家族もいるという。
採掘に加わりたいショベルカー所有者を装い、管理者Tに面会を申し出た。開口一番彼は、「ショベルカーは足りてないけど、県の役人にコネがなきゃだめだ」と言う。あるショベルカーを指し、「あれはLien Nghia町公安署長の(もの)、俺は直接彼から借りてる。仕事ができるかは、役人との関係しだいだな」。
4台見えるショベルカーのうち、青色の1台は、Lien Nghia町公安署長Vの所有、黄色の1台はDuc Trong県経済警察関係者の親戚のものという。運転手を交代しながら日夜休みなく動いており、見知らぬショベルカーは、入ればただちに追い出される。
ショベルカーのレンタル料は、1時間あたり60万〜65万ドン(約38〜41ドル)という。通常の3倍程度だ。ガソリン代や運転手に払う賃金を差し引くと、1時間あたり40万ドン(約25ドル)が所有者の懐に入る。ある管理者によると、採掘穴を1つ掘るのに約50時間かかる。つまり3,000万〜3,500万ドン(約1,880〜2,190ドル)の経費がかかる。「本当は40〜45時間もあれば済むんだが、わざとゆっくりやってるんだ。商売敵なんていないから」。
3月29日の朝、公安署長Vに連絡し、ショベルカーを借りたい旨伝えると、自宅に来いと言う。土地を購入したので金を掘りたいとの話を聞くと、「1時間65万ドン、支払いは50時間ごと。午後に親戚をやるから詳細を決めよう。貸し出しは、前金を受け取ってから」と言う。違法採掘で捕まることは無いのか、との問いには「捕まりたくないなら、礼金を納めればいいだけだ」。
採掘穴所有者達は、ほぼ全員が村や県の役人に対する「袖の下」の存在を認めている。この袖の下が通れば、県所属軍鉱産資源管理部から罰せられることはない。ショベルカーで掘り起こす前にまず500万ドン(約310ドル)、掘り起こしが終わり排水設備を設置した後も、採掘穴所有者は10日ごとに村の高山資源管理部事務所へ行き「ショバ代」を納めねばならない。
この金は村から県の役人にまで分配されるのだが、金鉱がなかなか見つからず、「袖の下」を渡すのが遅れたある採掘穴所有者は、排水設備を全て没収され、パイプをずたずたに切り裂かれた。また別の人は、「俺たちは奴らの道具さ。長い間やっているけど、誰も裕福になっちゃいない。潤っているのは役人ばかり」とつぶやく。
上記の公安署長Vも、「仕事がしたかったら、副村長に連絡しろ」と言う。自分の土地を買って金の採掘をするよう誘うTa Nang村人民委員会の農業管理担当者も、「始めるんなら、『大将』にまず50万ドン。採掘は禁止されているが、礼金さえ納めればやりたい放題だ」と言う。この「大将」が誰なのかという問いには、笑いをうかべるだけだ。さらに別の採掘穴管理者に確認すると、「副村長がOKしたら、軍のR上尉に会える。勝手に始めたらお終いだよ」とのことだ。
午後7時、やっとのことで副村長と彼の自宅で面会、この地で金の採掘をしたい旨を告げた。しばらくしてR上尉が到着、われわれを一瞥すると、「誰から聞いた?」と冷たく言う。公安V氏と答えると、「お前達が昨日ここへ来てから、見張りをつけていた。おかしな行動をとれば、何処かで襲われるかもな」と言い放ち、副村長と顔を見合わせ笑った。
脅し終えるとR上尉は饒舌になり、自分はDuc Trong県所属軍鉱物資源保護事務局の「参謀」と名乗った。「何も隠す必要はない。できることなら力になろう」と告げる彼に、理解できない表情を見せると、「掘りたいんだろう! はっきり言ったらどうだ」と怒ったように続ける。
土地を買ったが採掘できないので、何とかして欲しいと告げると、「どこの土地だ、誰から買った?」と質問が飛んでくる。われわれの答えを聞くと、「さっさと掘れ。急がないと全て失うぞ。俺の任期が切れていなくなったら、お前らは何もできなくなる」。そして副村長が付け加える。「支払いが遅れたら全て没収だ」。
汗をにじませながら、何とかして欲しい旨を告げると、これ以上脅しの必要はないと感じたのか、「やるなら礼金を払え。そんなに多くない。200万〜300万ドン(約125〜188ドル)で、ショベルカーを配備してやろう。掘り起こしが終わり、砂や水の除去装置を取り付けたら10日に1度ショバ代を払ってもらう。毎回事務所まで500万ドンな。支払いが遅れたり、別の人間に渡したりしたら、排水パイプをぶった切る。祝日には、俺が直々に集金に行くから」。
さらに、副村長のほうを向き、「彼にも10日に1度200万ドン納めるように。経理や休暇などは全て彼を通じて連絡しろ」。他にもショバ代は必要かと聞くと、袖の下はR上尉にだけ、他の役人と通じたら即採掘停止にすると念を押した。
そしてR上尉は、ショベルカーの貸し出しを約束し、こう言った。「皆俺の言うことを聞いて掘っている。ちょっとでも怪しい動きをしたら追い出すぞ」。
(Tuoi Tre)
(2007/05/18 05:46更新) |