ベトナム:Nidecグループ、ハイテクパークで2工場を落成
― 日本電産・永守社長インタビュー ―
Nidecグループは3月1日、ホーチミン市ハイテクパークで2工場を落成した。Nidec Corporation Vietnam社ではコンピュータ用ファンモータ、Nidec Sankyo社では、ステッピングモータ、光学ピックアップを主に生産する。同グループは2010年までに同ハイテクパークへ計10億ドルを投じる予定で、雇用創出は3万人にも上る。日本電産株式会社の永守重信社長にお話を伺った。
Q: ホーチミン市首脳との会談はいかがでしたか?
A: 市党委員会Nguyen Van Dua副書記に昨日お会いしましたが、とても若く、積極的、熱心な方で話をよく聞いてくださる姿が印象的でした。これまでにさまざまな指導者とお会いしましたが、概して若手指導者は自分を語ることを好み、他の人の話を聞こうとしません。
ですが、Dua氏は「耳が痛い」率直な意見でも一生懸命聞いてくださいました。また彼が話す際も、自分のことを語るのではなく、私が投資家として提示した問題を、最もよい形で解決すべく、意見を出してくださいました。各国で投資した上での経験ですが、投資が成功している場所はいずれも、意見に耳を傾け、最も早く、最も良い形での問題解決策の模索に積極的な若い指導者が存在する場所です。
Q: 1年ほど前、ハイテクパークへの10億ドル投資を発表された際には煩雑な行政手続による悪影響にも言及されていましたが?
A: このたびの2工場は、計画より6カ月遅れで完成しました。原因はベトナム側の手続き遅滞にあります。またこれは昨日の話ですが、空港では、VIPとして手続きができるようになっていたにもかかわらず、25分も待たされました。中国やその他アジア諸国の入国手続きは非常に迅速です。
投資家というのは、バッグに大金を詰め遠くからやってきた客です。門の前まで来たにもかかわらず、暑い屋外で、疲れたまま待たされ、家人が門を開けてくれなければ、その人はそこを立ち去るしかありません。この点を留意すべきでしょう。
Q: ホーチミン市投資の潜在性を積極的に紹介されています。何か特別な感情をお持ちなのですか?
A: 正直にお話しますと、以前はベトナム投資に特段の関心はありませんでした。10年ほど前、Tan Thuan輸出加工区で小さな工場を設立しましたが、その時の投資手続きは非常に複雑、困難なものでした。投資拡大など考えていませんでしたが、それが変わったのは、当時、市党委員会書記であったNguyen Minh Triet氏とお会いしてからです。
Triet氏が日本を訪問された際、弊社の京都工場にいらっしゃいました。その時に、煩雑な手続きなどの問題点を示し、さらなる投資を行わない理由をお話しました。驚いたことにTriet氏は、私の率直な意見を嫌がる風でもなく、むしろ喜んで、真剣に聞いてくれました。それからほどなく、私が挙げた問題点はいずれも解決されました。
その後も何度かTriet氏と面会していますが、いつも丁重にもてなしてくださり、投資家が提示する問題に耳を傾けてくれました。重要なのは、その後、その問題が解決されたことです。Triet氏の対応に安心し、考えを改め、投資拡大を決定しました。昨日も、元書記――現国家主席と同じような人物とお会いでき、また安心しました。Dua氏には、意見を聞くだけでなく、その問題を早期に解決するよう動いていただくことを期待します。
Nidecはアジア各国に進出していますが、ほぼ全ての国でベトナム同様の問題が生じています。私たちは、同様の投資環境である場合は人間関係を重視します。ベトナムの投資手続きが煩雑なことをお話しましたが、私たちは今それを受け入れています。
勤勉で勉強熱心、創造を好む労働者、問題点に耳を傾け、その解決に取り組む自治体・政府という、それに勝るものがあるからです。私は他の投資家にこう話しています。「耐えることを知り、ベトナムのプラスの素質を信じれば、必ず成功する」と。
Q: 2010年までにハイテクパークでは5工場体制となるそうですが?
A: 状況によっては10工場になるかもしれません。今後、工場運営、諸手続き、製品の安定消費、市場ニーズとのマッチ、迅速に上市するための税関手続きなどを検討した上で、今後の展開を決めます。
新たに落成した工場は「ハイテク」ですが、その水準は高くありません。今後の工場でより早期に、「より高レベルのハイテク」を移転したいと思います。中国では投資額が0から10億ドルになるまで4年半しかかかりませんでした。計画は6年でしたが、中国側の努力により問題が全て解決されました。ベトナムでもこのような形で、時間短縮が実現することを期待しています。
Q: 10億ドル投資には、ベトナム人技術者の日本研修も含まれています。
A: Tan Thuan輸出加工区の既存工場でも、毎年数十名が日本へ研修に行っています。今後はその規模がさらに大きくなります。この研修を通じ、ベトナムに技術移転できることを期待しています。研修は長くて2年、短くて3カ月。中国ではこの形で4万5,000人の労働者中6,000人を育成、いずれも高い技術、他の労働者に対する指導力を身に付け帰国しています。
投資誘致に際しては、投資額の大小、雇用の多寡のみならず、その投資家がもたらす技術の水準に注意せねばなりません。その技術こそが、ベトナムの経済発展に重要な手段だからです。
製品の低価格化だけを目指し、安い人件費の場所を探す投資家とは区別せねばなりません。そのような投資家は、人件費が高くなれば、工場を閉鎖してしまいます。シンガポール、タイ、マレーシアなど、以前大きな投資を誘致していた国々も人件費が高くなり、多数が中国とベトナムにシフトしています。
ベトナムにとって本当に必要なのは、深く投資し、技術移転をする投資家のみです。投資家を適切に選別できなければ、将来的に多数の困難にぶつかるかもしれません。
(Tuoi Tre/Sai Gon Giai Phong)
(2007/03/09 04:43更新) |